「芝仙祝寿」(しせんしゅくじゅ)
 

絵には霊芝(れいし) を手に持った三匹の白兎で構成されている。中心の兎は作者から玉兎と呼ばれており、玉兎の下に二匹の活発な兎がいる。伝説中では月宮には一羽の白兎がおり、嫦娥の化身であるという。嫦娥が不死薬を飲み月へ行った後、玉帝の旨に反した為に嫦娥が玉兎に変えられてしまい、毎月満月になると月宮の中で天神のために薬を搗いたと言われている。日本最古の月兎図は飛鳥時代の『天寿国繍帳』(中宮寺蔵)のそれであろうが、もとをたどれば中国の古い伝説であった。月の兎は西王母の命令で「不老不死の仙薬」を臼と杵で搗いている(仙兎搗薬)。つまり、玉兎には不死の仙兎という動物で指す。また、兎の擬人化は嫦娥だけではなく、貴重な薬材のことも思い出す。そこで作者は玉兎の手に霊芝を描いた。霊芝という言葉は中国では漢方薬名である。また、一般的には「万年茸」、「芝仙」、「瑞草」とも呼ばれている。日本では、サルノコシカケと呼ばれるキノコの仲間で、「マンネンタケ」と呼ばれている。サルノコシカケを漢字で書くと「猿の腰掛」字のごとく猿が椅子代わりにしたことからそう呼ばれるようになったのでしょう。また、霊芝は古くからアジアの各地の人々に親しまれ、縁起の良いキノコとして玄関先に吊るしたり神棚に飾られたりしたそうである。だから作者はこのような作品を制作して、家の中に飾られて観賞的な美しさのほかに濃厚な縁起の良い寓意があるのではないかと考えている。 
絵の背景には白い水仙が描かれている。白い水仙の花言葉には「尊敬」「神秘」という意味があり、尊敬の念を伝えたい相手には、プレゼントできる花である。人々によく見られる「芝仙祝寿」図の多くは霊芝と竹を組み合わせて絵を描くものである。作者の「芝仙祝寿」は霊芝に水仙を配して寿を祝うという意味の絵である。あるいは、吉祥の寓意を込めている作品として尊敬の気持ちを表すものに、相手が末永く健康で長生きすることを祈るという美意識が込められていると捉える意味もできる。