「慈」(じ)
 

作品『慈』は、釈迦誕生像のまわりを十二支が囲んでいる場面を描いています。作品名にはただ一文字、「慈」が用いられており、その意味には、愛に満ちた心、人間本来の優しさ、仁愛、親しみ、そして思いやりといった想いが込められています。作者はこの「慈」という字を通じて、仏法があらゆる衆生を救うという善なる願いと、命あるすべての存在への敬意を表現したいと考え、この作品に『慈』と名付けました。
また、釈迦は誕生後、東西南北にそれぞれ七歩ずつ歩み、その足元には大きな蓮の花が咲いたとされています。そして、彼は「天上天下、唯我独尊」と唱えました。その瞬間、大地が揺れ動いたと伝えられています。後世には、「釈迦立地成佛,七步生蓮」(釈迦即身成仏、七歩にして蓮を生ず)という話として広く伝えられ、今日に至るまで語り継がれています。
現代である釈迦誕生像の姿が右手で天を指し、左手で地を指してこの言葉を唱える像が一般的ですが、中国では、左手で天を指し、右手で地を指す像も出土されており、どちらが正しいかについては今なお研究の余地があります。
最後、なぜ十二支を釈迦のまわりに配置したのかというと、二つの寓意が込められています。まず、万物が調和して共存する自然の真理と循環を象徴するためです。次は、十二支はすべての人々を象徴しており、誰もがどれか一つの干支に属しているという意味があります。観賞者がこの作品を見たとき、自らの干支を自然と探してしまう。これこそが、作者の意図であり、観賞者を作品の中へと引き込む仕掛けなのです。
仏の慈悲は限りなく、常に私たちを守ってくれています。私たちもまた、感謝と慈しみの心を持って、この世のあらゆる美しさに応えていくのです。